学生時代の大半は野球に明け暮れ、大学からフリースタイルフットボールに出会ったまぢり。現在は日本最大規模の参加者数を誇る「関西JAM」の主催や、自身で大会やスクールを運営するなど、多方面で活躍を遂げている。

関西を拠点にシーンの普及に貢献する彼は、なぜ自ら様々な環境を創り出すようになったのか。JAM、大会、スクールという3つの大枠から、その理由を語った。

mixiのコミュニティから関西JAMへ

小学生の時にテニスを習っていたまぢりは、中学からは野球を始めることとなる。そして高校でも野球部に所属し、大学では社会人に混ざって草野球を楽しんでいた。

ただ、部活に打ち込んでいた中学・高校時代と比べて、大学時代は週1回程度の草野球だけになってしまい、身体を動かす機会が減ったことが悩みだった。

「あれだけ部活で身体を動かしていたのに、大学に入った途端にスポーツをやる機会がかなり減ってしまったんですよね。草野球では物足りなくなって、何かしたいと思っていた時に、たまたまクラスにリフティングが上手い子がいて。高校の休み時間にみんなで毎日サッカーをして遊んでいたこともあったので、その子に頼んで一緒に技の練習を始めました」

 

技を練習するといっても、当時はアラウンド・ザ・ワールドやミラージュ、ヒールリフトなど、サッカー部が挑戦するレベルの技しか知らず、「フリースタイルフットボール」という名前も知らなかったという。

そして、既知の技に物足りなさを感じ、他の技をYouTubeで探していた時に、今挑戦していることがフリースタイルフットボールだと知った。初めて見た動画は、日本人フリースタイラーの中でトップレベルの再生数を誇る、あの動画だった。

出典:YO1113

現在はフリースタイラーの交流といえばTwitterがメインだが、当時は「mixi」が全盛期だった。フリースタイルフットボールのコミュニティが複数存在し、まぢりはその中でフリースタイラーと交流を図っていった。

「mixiでいろいろなフリースタイラーと繋がって、一緒に練習する機会もできて、関西JAMにも参加しました。関西JAMは2005年にスタートして、僕が2008年に参加した時は不定期開催で、まだ10回目くらいでしたね」

 

もともとはRAPAZのメンバーが主催していた関西JAMだが、2009年からはまぢりが主催を務めることとなる。それまで毎月第4日曜日だった開催日も「日曜日は翌日に学校や仕事がある人が多い」という事情で第4土曜日に変えた。

関西JAMは現在も日本最大規模の定期JAMとして継続的に開催しており、参加者数は平均で約30人を超えている。

 

まぢりが大会に初めて出場したのは、2008年のRed Bull Street Style大阪予選だった。世界大会に繋がる大きな舞台に立ったことで「人前でバトルをする楽しさを知った」という。その一方で、当時は今よりも大会が少なく、力を試す場も限られていたのが悩みだった。

「年に1度のRed Bull Street Styleには特別感はあるものの、それ以外にバトルの経験を積む場がないんです。1年間練習を積んできて、その1回のバトルだけで終わってしまうことに寂しさを感じていました」

そこで自ら提案したのが「33 Cup」というフリースタイラーによるフリースタイラーのための大会だった。総当たりに近い形で、バトルを数多く経験できる大会として、関西のフリースタイラーとともに主催した。関西JAMも含め、まぢりは「自分が欲しいと思う環境」を自分で創り上げているのだ。

出典:freestylerMAJIRI

“大会のための大会”を自ら主催

様々な大会を企画してきたまぢりだが、現在は経験値を積むことに特化した「Exp.battle」を主催している。その背景には、JFFCなどの主要大会に出た時に感じた、ある違和感があった。

「関東の大きな大会に行くと、関西JAMには平均で30人以上集まるわりに、関西人が結構少ないなという印象があって。もう少し上手くなったら出たいとか、遠いからとか、いろいろな理由はあると思います。ただ、いつも関西でワイワイやっているメンバーが観客にもいないとなると、どこか面白くないんですよね」

 

JFFC 2017ではエントリー103人中、関西在住のフリースタイラーは15人を数えた。これは関西のシーンの盛り上がり具合からいえば、決して多い人数ではない。

経験値や距離など、様々な理由が考えられる中で、まぢりが提案したのは「大きな大会に出るための経験を積める大会」、つまり“大会のための大会”だった。

「とにかく経験を積める場が足りないですし、この技が大会でどれだけ通用するのかというのは、練習だけでは分からないんです。そういった経緯でExp.battleを始めて、この大会が盛り上がれば、そこから上のステージに行く人も増えていくんじゃないかと思っています」

 

Exp.battleで積めるのは、バトルの経験値だけではない。ジャッジはすべて出場する選手たちで分担して行っており、選手自身が普段どのようにジャッジされているのかを学ぶことができる。

また、選手たちには「当日の遅刻はありえない」ということも伝えている。遅刻を待ってくれる大会は当然ながら少なく、場合によっては減点や失格もあり得るからだ。

 

Exp.battleでは、エントリー1つに関しても、運営側の観点から“次に繋がる方法”を提案している。

「エントリーが初日で100人集まるのと、最終日にやっと100人集まるのとでは、その大会が次に繋がるかが変わってきます。運営側からすれば、初日に100人集まるのなら、次はもっと規模を大きくしようと考えます。

ただ、最終日にやっと集まるくらいなら、次を考えるのが大変ですよね。スポンサーが離れていってしまう可能性もあると思います。だからこそ、出ると決めているのなら、エントリーは早くしたほうが良いという話をしています」

 

エントリーに加えて「大会に出るのであれば、そのことをSNSに書いてほしい」ということも強調している。フリースタイラーが大会に出た時に、SNSで発信したいのは、恐らく“良い結果”だろう。だとすれば、SNSで大会のこと発信することができるのは、上位に進出した選手や、下克上などの話題を起こした選手に限られてしまう。

そうではなく、大会に出場すること、そして出場したことを発信するだけでも、その大会の意義が生まれてくることを指摘している。

「例えば、100人中100人が大会に出て『楽しかった』『またやりたい』とSNSで書いてくれれば、運営側は次も必ずやろうと思いますよね。ただ、100人出て1人も書かなければ、たぶんもうやらないです。いざ大会に出たいと思った時に、その大会がなくなっている可能性はありますし、実際に今までもなくなってはきています」

だからこそ、Exp.battleではバトルの場を提供するだけでなく、運営側の観点も明確に伝えている。

スクールを始めた経緯

現在、まぢりが最も力を注いでいるのがスクールである。約4年前から始めたスクールだが、当初は企画書を持ってサッカーチームやフットサル場を回っていたものの、フリースタイルフットボール単体のスクールができる場は見つからなかった。

そんな中で、いつも通りに練習をしていた時に、ある大きな出会いがあったという。

「いつもの場所で練習をしていたら、今お世話になっているフットサル場の社長さんが『すごいね』と声をかけてくれて。今だ!と思ってスクールをやりたいと提案したら、『いつでもいいよ』と言ってくれたんです」

その後も徐々にスクールを開催する機会が広がり、今は個人レッスンも含め、平日のほぼ毎日をフリースタイルフットボールの指導に費やしている。

出典:freestylerMAJIRI

まぢりのスクールの生徒は小学生が中心で、分かりやすいように技を細かく分解し、指導している。

「アラウンド・ザ・ワールド1つにしても、練習方法は5段階くらいに分けています。まずは体の動かし方から覚えて、それに実際にボールをくっつけて、という感じです」

技に入る前に、リフティングの基礎も入念に教えている。「落とさないリフティングは当たり前」の状態にした上で、ボールの動かし方やフォームの改善にも着手している。

 

まぢりの理想は、リフティングをしているだけで「あの人は上手い」と思わせることだという。そのためには、ヘディングやインサイド、アウトサイドができないことはマイナスである。また、スキルに加えて“自然体”のフォームでリフティングできることも重要視しており、スクールではリフティングの基礎を30分は必ず教えている。

また、指導者として彼自身も基礎の練習には力を入れている。

「教える側からしても、プロのサッカー選手にリフティングで負けていたら、僕たちの立場はないと思っています。リフティングだけは絶対に勝たないといけないですし、子供たちから『これをやって』と言われた時にできないことがないようにもしています」

プロとしての新たな前例を

4年間スクールを続けてきたことで、近年は生徒が大会に出場することも増えてきた。2年前には、22歳以下の日本一決定戦「JFFC U-22」に、生徒の強波(ごうは)を送り出している。

「あの時は見ている僕のほうが緊張していましたね(笑)好きなようにやっておいで、というふうに言って送り出したので、何をするのかドキドキしながら見ていました。今はバトルの後にちゃんと声を掛けてあげられるように見ています。心配はしていないですけど、その子が納得できるような言葉を掛けてあげたいので、違うドキドキがあります」

昔は「パパ目線だった」と語るまぢりだが、今は「指導者目線」で、生徒に対して次に繋がる言葉を送っている。

 

昨年から小学生日本一決定戦「アラジンカップ」が新設された。この大会は生徒が日頃の成果を発表できる場であり、生徒の親や兄弟も観戦に訪れる。その一方で、まぢりは一般のフリースタイラーに対して「もっと見に来てほしい」という本音を漏らしている。

「もちろんカテゴリーが違うというのはありますけど、2〜3年後には同じ舞台で戦っている可能性のある子たちですし、小学生が頑張っている姿を間近で見てほしいんです」

 

BMXやスケートボードを含め、ストリートカルチャーのトッププレーヤーは“早熟”であり、10代半ばでトップに躍り出ることも不思議ではない。つまり小学生大会では、近い将来にシーンを担う選手たちを目撃できる可能性もある。

また、フリースタイルフットボールはたたでさえイベントが少なく、大勢のフリースタイラーが集まる機会も限られている。そういった意味でも、小学生大会がより多くの観客が集うイベントとなることに彼は期待を寄せている。

 

まぢりがスクールに力を注いでいる理由には、フリースタイラーに「次のステージがあることを示したい」という想いもある。

「プロのフリースタイラーになるのであれば、Tokuraみたく世界大会で優勝して有名になって食べていく道と、LA CLASSICみたくショーケースで食べていく道があると思います。この2つの生き方にはスキルが求められます。ただ、スクールに関していえば、例えばサッカーや野球のコーチは必ずしもプロではないですし、僕みたいにトップレベルよりも下の位置にいる人でもできるんです」

 

子どもたちがTokuraやLA CLASSICに憧れ、フリースタイルフットボールを始める時に「まず何をすれば良いか分からない」ということは多いだろう。そんな子どもたちを目指すステージに送り出すことがまぢりの役割でもある。

もし仮に子どもたちがそのステージに届かなかったとしても、まぢりと同じ「指導者」という道を歩む可能性もあり得る。そのために、彼はプロの指導者という未だかつてない前例を作っている最中だ。

 

指導する相手は子どもたちだけに留まらない。対象年齢を幅広く設定したスクールも開催しており、30代や40代の層にもフリースタイルフットボールの楽しさを伝えている。

「このカルチャーの可能性を広げるためにも、スクール、大会、関西JAMの3つは今後も続けていきたいと思います。もちろん、大元には自分が欲しいと思う環境を創りたいという想いはありますけど、それが人のためにもなれば嬉しいですね」

10代の大半を野球に費やした元球児は今、フリースタイルフットボール界の未来を創っている。

出典:freestylerMAJIRI

投稿者プロフィール

Hiromu Tanaka
Hiromu Tanaka
中学生からフリースタイルフットボールを始め、大会やパフォーマンスなどに積極的に参加。現在はフリーランスで、スポーツを中心に様々なWebコンテンツを配信。JF3の運営をはじめ、フリースタイルフットボール界を盛り上げるべく、多岐に渡る活動を行っている。