Ibukiのクリッパースタイルの起源と、スキルを作る要素とは?

Air Technicianのメンバーとして活動するほか、自身で子ども向けのレッスンを開催するなど、多方面で活躍を遂げているIbuki。

昨年はWING Clash of Freestyle Vol.5で優勝。SUPER BALLでは3年連続の出場で、2016年にベスト16進出を果たすなど、国内外でその名を馳せている。

そんな日本を代表する若手フリースタイラーが、自身のスキルアップのために行う様々な取り組みとは?

クリッパースタイルの起源

Ibukiは2012年の12月からフリースタイルフットボールを始めた。当時はTokuraがRed Bull Street Style World Finalで優勝し、メディアで盛り上がりを見せている頃だった。

もともとは高校のサッカー部に所属していたが、入部当初から怪我が続いたこともあり、途中で部活動を辞退した。その後、一人でサッカーを続けていた中で、フリースタイルフットボールと出会うこととなる。

「一人で練習することって、ドリブルとリフティングしかないじゃないですか。もともとリフティングの技は少し練習していて、2012年の年末から本格的にやるようになって。動画を探していたらTokuraさんが出てきて、日本人が世界で優勝したことを知りました」

 

そうして練習を始めた1ヶ月後に、大阪でTokuraがショーを行うことが決まり、足を運ぶことになる。ショーには多くの関西のフリースタイラーが集まり、その後に行われた関西JAMでIbukiは初めてフリースタイラーと接点を持つこととなる。

「JAMには、Tokuraさん、Naoさん、OCHIOさんと、Red Bull Street Style Japan Finalのトップ3が揃っていました。OCHIOさんとはすごく仲良くなって、それから一緒に練習するようになりました」

OCHIOとの繋がりをきっかけに、関西JAMから半年以上が経った頃に、Air Technician(以下エアテク)のリーダーのKazaneと出会い、エアテクへの加入が決まった。

その後はプレーヤー歴2年ながら、2015年にSUPER BALLへ初出場し、同年に行われたG-STYLE FOOTBALLで初優勝を果たすなど、クリッパーストールを基調としたスタイルを武器に階段を上っていった。

「クリッパースタイルには自然となっていました。もともとOCHIOさんがクリッパーストールを混ぜたエアームーブをやっていたので、その影響は大きかったです。Kamalioも大好きなので、そこにブロックも混ぜてという感じで。最初はエアームーブがメインだったんですけど、徐々にクリッパー系が増えていきましたね」

OCHIOのクリッパーストールを混ぜた“変則系”のエアームーブは、当時はかなり目新しく、世界中から注目を集めていた。Ibukiは自身のスタイルの構築だけでなく、スキルの成長速度にもOCHIOの存在が大きく影響していたという。

「まだ自分のスタイルが何もない時にOCHIOさんと出会って、レベルの高いスキルを目の当たりにしていたので、OCHIOさんの常識が自分の常識になっていくような感覚があって。ひたすらOCHIOさんの技を見様見真似で挑戦していたので、そのおかげでスキルの伸びが早くなっていたと思います」

 

日本のトッププレーヤーとして活躍する今でも、Ibukiのクリッパースタイルは健在だが、近年はある変化も見られている。今まではあまり見られなかったシッティングや、アクロバットなムーブなど、技の引き出しが増えている。それによって、単調になりがちなクリッパースタイルに緩急が加わっている。

その変化のきっかけとなったのは、2016年にベスト16進出を果たしたSUPER BALLだった。

「大会が終わって映像を見返した時に、ただ勝つためだけのバトルと、勝った上で面白いことをやっているバトルとでは、全然違うと思ったんです。勝ちにいくためだけのルーティーンを組んで、仮に優勝できたとしても、その先に何があるかが分からないし、そこで終わってしまう気がして」

SUPER BALL 2016では、ベスト16でチームメイトのYoに敗れた。翌年は再び同大会に出場し、ベスト32で敗れたが、前年に比べると明らかに表現力に磨きがかかっていた。成績こそ落ちたものの、周囲に残したインパクトは前年以上に大きいのではないだろうか。

「見ていて次にどう動くか分からないというのが理想ですね。それを意識し始めてからショーをやることも多くなったし、できることも増えていったと思います」

スキルベースのスタイルの裏側

日本のフリースタイルは世界に比べてオリジナリティやクリエイティビティが高く、“ストリート”や“アート”と表現される。対して世界のフリースタイルはスキル重視の“スポーツ”と捉えられている。

Ibukiはアートやストリートの要素がある一方で、スキルの高さはスポーツ要素も備えているが、そのスタイルの成り立ちにはある理由があった。

「2015年に初参戦したSUPER BALLで、世界から客観視した日本のフリースタイルを初めて見ることができて。それを見た時に、世界のフリースタイルと日本のフリースタイルの“間”にいきたいと思ったんです。その経験が今のスキルベースのスタイルに表れています」

現日本王者のYoが、初戦敗退に終わった世界大会「DAZN World Freestyle Masters」の直後に「スキルフルなスタイルでないと世界では勝てない」と語っていたが、Ibukiが追い求めているものもそれに近いのではないだろうか。

参考:世界で痛感した、ある一つの差。日本王者が決心した“再スタート” 

 

前述した通り、Ibukiはここ数年で技の引き出しを広げている。また、それに加えてクロスボディ系のトリックは小技が多いため、その一つ一つを整理するために“フリースタイルノート”を用いているという。

「技の数が多いし、全部を混ぜたいので、一つ一つを安定させないといけないんですよね。そのためには技の整理をしないと分からなくなるので、ノートに書いてまとめています」

ノートには技の種類だけでなく、日頃の練習メニューも細かく書かれている。

「自分の中では、エアームーブと、クラッチ系のエアームーブと、ストール系のエアームーブの3つにジャンルが分かれています。1日の練習の中で、そのうちの2つはこなす練習で、残りの1つは重点的に強化するというような形で、それを練習ごとに順番に回しています。そうしないと全部が平行線で、ただのスキル維持みたいになってしまうので」

この緻密な作業の繰り返しこそが、日本と世界で活躍するIbukiのスタイルを成り立たせている。

スキルアップの裏にある“トレーナー”の指導

また、Ibukiはここ数年で技の引き出しだけでなく、身体のキレも増していることが映像で見ても分かる。その要因には、大学で出会ったトレーナーの存在があった。

「ここ1、2年で、大学のジムをメインに使って身体を鍛え始めています。そのジムに務めていたトレーナーの方にいろいろと教わっていたんですけど、その方が去年の春に大学を離れてしまって。ただ、離れる前に『連絡をくれればいつでも見に行くから』と言ってくれて、今も指導をしてもらっています」

 

トレーナーの指導は多岐にわたる。Ibukiの練習している技やスタイルに対して、必要な筋肉や身体の動かし方を分析し、独自のトレーニングメニューを考案している。そのトレーニングを繰り返し行うことで、技の安定感や身体のキレが以前より増している。

「とにかく動きがめちゃくちゃ速くなりました。前はシッティングで身体を持ち上げる動きができなかったので。すべてにおいて身体の安定感が抜群に増しています」

食事に関しても、練習中や練習前後に摂取すべき栄養素などの指導を受けている。現在も食事に関する本を参考に、食生活の改善に取り組んでいるという。

 

また、そのトレーナーの指導によって学んだことを、自身が運営する子ども向けのレッスンにも生かしている。

「僕のレッスンでは、最初の10分くらいはボールを蹴らずに、ストレッチや身体を動かす練習をしています。身体の動かし方を覚えれば、その子たちが他のスポーツを始めても生きてくる部分はあるはずです」

レッスンには、サッカーをメインにやりながら通う子どもが大半を占めるが、サッカーをプレーする上でも身体の動かし方を学ぶことはプラスになるだろう。

また、このレッスンには、Ibukiが主な拠点としている神戸で「自然にボールを蹴っている人が集まるような環境を作りたい」という想いも込められているが、子どものフリースタイラーを増やすことは、シーンにとってもプラスになる。

「今のフリースタイル界はプレーヤーばかりで、その人たちを応援する層が圧倒的に少ないと思っています。子どもたちがプレーヤー層に入っていくことによって、その家族や周りの人を巻き込んでいきたいですね」

現在は日本のトッププレーヤーとして活躍しているIbukiだが、意外にもプレーヤー歴は5年と、さほど長くはない。それでもトップレベルにたどり着いた理由は、エアテクへの加入や、SUPER BALLへの参戦など、経験が浅い段階から未知な世界へ飛び込んでいったことも大きいのではないだろうか。

そして、Ibukiは自身の目標として、世界大会での優勝を掲げている。

「世界大会で優勝することがスタートだと思っています。発信力もつきますし、優勝したからこそできることもあると思うので、その強みを持った上で自分が何をしていけるかのを考えていきたいです。

シンプルに勝ちたい、負けたくないという気持ちもあります。始めた頃のもっと上手くなりたい、勝ちたいという気持ちは変わらないですし、むしろ強くなっているので。エアテクはそういうスタンスでやっていますし、僕らが今以上に活躍して、下の世代にもっと夢を与えられればベストだと思います」

フリースタイラーのIbuki、そしてAir TechnicianのIbukiとして。今後のシーンに大きな影響を与えていくことが期待される。

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投稿者プロフィール

Hiromu Tanaka
Hiromu Tanaka
中学生からフリースタイルフットボールを始め、大会やパフォーマンスなどに積極的に参加。現在はフリーランスで、スポーツを中心に様々なWebコンテンツを配信。JF3の運営をはじめ、フリースタイルフットボール界を盛り上げるべく、多岐に渡る活動を行っている。

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